「じぶんとひとと万象といっしょに 至上福祉にいたらうとする」

『春と修羅』宮沢賢治 (「宮沢賢治全集」ちくま文庫 筑摩書房)

挑了自己喜欢的几段,可能有错字(...),格式也有点问题,lft是吃空格的怪物


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これらについて人や銀河や修羅や海胆は 

宇宙塵をたべまたは空気や塩水を呼吸しながら 

それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

それらも軍寛こゝろのひとつの風物です

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは 

記録されたそのとほりのこのけしきで 

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

ある程度まではみんなに共通いたします 


すべてこれらの命題は

心象や時間それ自身の性質として

第四次延長のなかで主張されます 


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恋と病熱


けふはぼくのたましひは疾み 

鳥さへ正視ができない 

あいつはちやうどいまごろから

つめたい青銅の病室で 

透明薔薇の火に燃される

ほんたうにけれども妹よ

けふはぼくもあんまりひどいから

やなぎの花もとらない 


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春と修羅 


日輪青くかげろへば

修羅は樹林に交響し 

陥りくらむ天の椀から

黒い木の群落が延び 

その枝はかなしくしげり

すべて二重の風景を 

喪神の森の梢から

ひらめいてとびたっからす 


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風景


雲はたよりないカルボン酸

さくらは咲いて日にひかり

また風が来てくさを吹けば 

蔵られたたらの木もふるふ

さっきはすなっちに厩肥をまぶし

(いま青ガラスの模型の底になってゐる) 

ひばりのダムダム識がいきなりそらに飛びだせば

風は青い喪神をふき

黄金の草  ゆするゆする 

雲はたよりないカルボン酸 

さくらか日に光るのはゐなか風だ 


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休息 


からだを草に投げだせば

雲には白いとこも黒いとこもあって

みんなぎらぎら湧いてゐる

帽子をとって投げつければ黒いきのこしやっぽ

ふんぞりかへればあたまはどての向ふに行く

あくびをすれば 

そらにも悪麿がでて来てひかる

このかれくさはやはらかだ 

もう極上のクッションだ
雲はみんなむしられて
青ぞらは巨きな網の目になった

それが底びかりする鉱物板だ 

よしきりはひっきりなしにやり

ひでりはパチパチ降ってくる 


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真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)(注:德语,A fantasy in the morning)


融銅はまだ鵬めかず

白いハロウも燃えたたず 

地平線ばかり明るくなったり掛ったり

はんぶん溶けたり澱んだり

しきりにさっきからゆれてゐる 

おれは新らしくてパリバリの

銀杏なみきをくぐってゆく

その一本の水平なえだに

りっぱな硝子のわかものが

もうたいてい三角にかはって

そらをすきとほしてぶらさがってゐる

けれどもこれはもちろん

そんなにふしぎなことでもない 

おれはやつぱり口笛をふいて

大またにあるいてゆくだけだ 

いてふの葉ならみんな青い

冴えかへってふるへてゐる 

いまやそこらはalcohol瓶のなかのけしき

白い輝雲のあちこちが切れて 

あの永久の洞窟がのぞきでてゐる

それから新鮮なそらの海鼠の匂

ところがおれはあんまりステッキをふりすぎた 

こんなににはかに木がなくなってしばふ 

眩ゆい芝生がいっぱいいっぱいにひらけるのは

さうとも銀杏並樹なら 

もう二埋もうしろになり

野の緑青の縞のなかで 

あさの練兵をやってゐる

うらうら湧きあがる昧爽のよろこび 

氷ひばりも喘いてゐる

そのすきとほったきれいななみは

そらのぜんたいにさへ 

かなりの誘きやうをあたへるのだ

すなはち雲がだんだんあをい虚空に融けて

たうとういまは 

ころころまるめられたパラフヰンの囲ん誰になって

ぽつかりぽつかりしづかにうかぶ 

地平線はしきりにゆすれ

むかふを鼻のあかい灰いろの紳士が

うまぐらゐあるまっ白な犬をつれて

あるいてゐることはじつに明らかだ 


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小岩井農場


この不可思議な大きな心象宙宇のなかで

もしも正しいねがひに燃えて

じぶんとひとと万象といっしょに

至上福祉にいたらうとする

それをある宗教情操とするならば

そのねがひから砕けまたは疲れ

じぶんとそれからたったもひとつのたましひと

完全そして永久にどこまでもいっしょに行かうとする 

この変態を恋愛といふ
そしてどこまでもその方向では
決して求め得られない

その恋愛の本質的な部分を

むりにもごまかし求め得ようとする 

この傾向を性感といふ

すべてこれら漸移のなかのさまざまな過程に従って

さまざまな眼に見えまた見えない生物の種類がある 

この命題は可逆的にもまた正しく

わたくしにはあんまり恐ろしいことだ

けれどもいくら恐ろしいといっても

それがほんたうならしかたない

さあはっきり眼をあいてたれにも見え

明確に物理学の法則にしたがふ 

これら実在の現象のなかから

あたらしくまっすぐに起て

明るい雨がこんなにたのしくそそぐのに

馬車が行く馬はぬれて黒い 

ひとはくるまに立って行く

もうけっしてさびしくはない

なんべんさびしくないと云ったとこで

またさびしくなるのはきまってゐる

けれどもここはこれでいいのだ 

すべてさびしさと悲傷とを焚いて

ひとは透明な軌道をすすむ
ラリックスラリックスいよいよ青く 

雲はますます縮れてひかり

わたくしはかっきりみちをまがる 


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風景観察官 


何といふいい精神だらう 

たとへそれが韓壽いろでぼろぼろで

あるいはすこし暑くもあらうが

あんなまじめな直立や

風景のなかの敬度な人間を

わたくしはいままで見たことがない 


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東岩手火山


この石標は

下向の道と書いてあるにさうゐない

火口のなかから提灯が出て来た 

宮沢の声もきこえる

雲の海のはてはだんだん平らになる

それは一つの雲平線をつくるのだ

雲平線をつくるのだといふのは

月のひかりのひだりから
みぎへすばやく擦過した 

一つの夜の幻覚だ

いま火口原の中に 

一点しろく蹴るもの

わたくしを呼んでゐる呼んでゐるのか

私は気圏オペラの役者です 


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永訣の朝 


銀河や太陽気圏などとよばれたせかいの

そらからおちた雪のさいごのひとわんを ..... 

....ふたきれのみかげせきざいに

みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち

雪と水とのまっしろな二相系をたもち

すきとほるつめたい雫にみちた

このつややかな松のえだから

わたくしのやさしいいもうとの

さいごのたべものをもらっていかう

わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ

みなれたちやわんのこの藍のもやうにも

もうけふおまへはわかれてしまふ 


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無声働哭


こんなにみんなにみまもられながら

おまへはまだここでくるしまなければならないか

ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ

また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ

わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき

おまへはじぶんにさだめられたみちを

ひとりさびしく往かうとするか 

信仰を一つにするたったひとりのみちづれのわたくしが

あかるくつめたい精進のみちからかなしくっかれてゐて

毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ 


わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは

わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ

ああそんなに 

かなしく眼をそらしてはいけない 


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青森挽歌 


さう甘えるやうに言ってから

たしかにあいつはじぶんのまはりの

眼にははっきりみえてゐる 

なっかしいひとたちの声をきかなかった

にはかに呼吸がとまり脈がうたなくなり

それからわたくしがはしって行ったとき 

あのきれいな眼が

なにかを索めるやうに空しくうごいてゐた
それはもうわたくしたちの空間を二度と見なかった

それからあとであいっはなにを感じたらう

それはまだおれたちの世界の幻視をみ

おれたちのせかいの幻聴をきいたらう

わたくしがその耳もとで 

遠いところから声をとってきて

そらや愛やりんごや風すべての勢力のたのしい根源

万象同帰のそのいみじい生物の名を

ちからいっぱいちからいっぱい叫んだとき
あいつは二へんうなづくやうに息をした

白い尖ったあごや頬がゆすれて

ちひさいときよくおどけたときにしたやうな 

あんな偶然な顔つきにみえた

けれどもたしかにうなづいた 


たしかにあのときはうなづいたのだ

そしてあんなにつぎのあさまで

胸がほとってゐたくらゐだから

わたくしたちが死んだといって泣いたあと

とし子はまだまだこの世かいのからだを感じ
ねっやいたみをはなれたほのかなねむりのなかで 

ここでみるやうなゆめをみてゐたかもしれない

そしてわたくしはそれらのしづかな夢幻が 

つぎのせかいへつゞくため
明るいいゝ匂のするものだったことを

どんなにねがふかわからない

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オホーツク挽歌 


鳥は雲のこっちを上下する 

ここから今朝舟が滑って行ったのだ

砂に刻まれたその船底の痕と

巨きな横の台木のくぼみ 

それはひとつの曲った十字架だ 

幾本かの小さな木片で

HELLと書きそれをLOVEとなほし 

ひとつの十字架をたてることは

よくたれでもがやる技術なので

とし子がそれをならべたとき

わたくしはつめたくわらった 


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噴火湾 


一千九百二十三年の

とし子はやさしく眼をみひらいて

透明薔薇の身熱から
青い林をかんがへてゐる 

ファゴットの声が前方にし
Funeral marchがあやしくいままたはじまり出す


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雲とはんのき 


幻惑の天がのぞき
またそのなかにはかがやきまばゆい横雲の一列が

こころも遠くならんでゐる

これら葬送行進曲の層雲の底

鳥もわたらない滸滞な空間を

わたくしはたったひとり

つぎからつぎと冷たいあやしい幻想を抱きながら

一挺のかなづちを持って

南の方へ石灰岩のいい層を

さがしに行かなければなりません 


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宗教風の恋 


がさがさした稲もやさしい油緑に熟し

西ならあんな暗い立派な霧でいっぱい

草穂はいちめん風で波立ってゐるのに

可哀さうなおまへの弱いあたまは

くらくらするまで青く乱れ 

いまに太田武か誰かのやうに 

眼のふちもぐちやぐちやになってしまふ 

ほんたうにそんな偏って尖った心の動きかたのくせ 

なぜこんなにすきとほってきれいな気層のなかから

燃えて暗いなやましいものをつかまへるか

信仰でしか得られないものを 

なぜ人間の中でしつかり捕へようとするか 

風はどうどう空で鳴ってるし
東京の避難者たちは半分脳膜炎になって 

いまでもまいにち過げて来るのに 

どうしておまへはそんな医される筈のないかなしみを

わざとあかるいそらからとるか 

今はもうさうしてゐるときでない

けれども悪いとかいゝとか云ふのではない 

あんまりおまへがひどからうとおもふので 

みかねてわたしはいってゐるのだ 

さあなみだをふいてきちんとたて 

もうそんな宗教風の恋をしてはいけない 

そこはちやうと両方の空間が二重になってゐるとこで

おれたちのやうな初心のものに
居られる場処では決してない 


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風の偏倚


風が偏借して過ぎたあとでは 

クレオソートを塗ったばかりの電柱や

逞しくも起伏する暗黒山稜や 

(虚空は古めかしい月宗にみち)

研ぎ澄まされた天河石天盤の半月
すべてこんなに錯綜した雲やそらの景観が

すきとほって巨大な過去になる

五日の月はさらに小さく副生し

意識のやうに移って行くちぎれた蛋白彩の雲

月の尖端をかすめて過ぎれば 

そのまん中の厚いところは黒いのです


呼吸のやうに月光はまた明るくなり

雲の遷色とダムを超える水の音

わたしの帽子の静寂と風の塊 

いまくらくなり電車の単線ばかりまっすぐにのび

レールとみちの粘土の可塑性 

月はこの変厄のあひだ不思議な黄いろになってゐる 


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第四梯形 


青い抱擁衝動や

明るい雨の中のみたされない唇が

きれいにそらに溶けてゆく

日本の九月の気圏です 

そらは霜の織物をつくり 

萱の穂の満潮 


いまきらめきだすその真鍮の畑の一片から

明暗交錯のむかふにひそむものはまさしく第七梯形の
雲に浮んだその最後のものだ

緑青を吐く松のむさくるしさと 

ちぢれて悼む雲の羊毛 


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一本木野


松がいきなり明るくなって

のはらがぱっとひらければ

かぎりなくかぎりなくかれくさは日に燃え 

電信ばしらはやさしく白い碍子をっらね

ベーリング市までつづくとおもはれる 

すみわたる海蒼の天と 

きよめられるひとのねがひ

からまっはふたたびわかやいで萌え 

幻聴の透明なひばり

七時雨の青い起伏は

また心象のなかにも起伏し 

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